実家に帰るとテーブルの上に2つずつ包装されたロールパンをやたらと見る。スーパーでは見かけない袋で、給食で出されそうな雰囲気のこのロールパンは何かと母に尋ねたら、おじいちゃんが残すのだと言った。 祖父は1年ほど前に長年住ん続きを読む “House Houser Housest 2”
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House Houser Housest
引っ越しを考えていて、賃貸物件情報をよく見るようになった。間取りの図と室内写真を眺めながらまだ見ぬ家、そこで生活することをイメージしてみる。 駅から徒歩何分、二口コンロが置けるか、セパレートか、洗濯機置き場、収納、日当た続きを読む “House Houser Housest”
晩秋の台所
唇がやたら乾燥するようになって、夕飯の献立を考えるのにまず土鍋の図が浮かぶ。 数年前韓国に行ったとき土産物屋で、日本人の作るキムチ鍋は水っぽい、なぜなら最初にキムチを炒めないからだ、この唐辛子粉とこのキムチをこのごま油で続きを読む “晩秋の台所”
17日目の人
妹が産んだ肺呼吸を始めて17日目の人は、母乳を吸うための顔の筋肉が発達したのか輪郭がちょっとシャープになり、目も大きく開くようになってきた。妹は自動的に、どんどん母乳を作ることができるようになり、その量は日々増えて、出産続きを読む “17日目の人”
おでんの卵
深夜に家のなかが出汁のにおいに満ちているのはおでんを仕込んでいるため。台所に立っていると背後に視線を感じる。出汁がらの鰹節を待っているにゃあと鳴くものの。大根とこんにゃくをそれぞれ下茹でして、そのあいだに出汁をとる。ゆで続きを読む “おでんの卵”
ひと肌
日没が日に日にはやくなり、まだ夕方だと思っていたのに屋外に出ると急に風景が夜に押し出されていて、置き去りにされたみたいでなんかさみしい。 多少の厚着をしたつもりで出掛けたのに防寒も追いつかず、さみしいついでに羽織るもので続きを読む “ひと肌”
リアルな他所
京都でやっていたアートイベントの展示でVRというものを体験できる作品があった。 VRヘッドセットという海女さんのゴーグルみたいな形の装置を着けると映像が見え、実際にそのときいる場所とはまったく違う場所にいるかのような立体続きを読む “リアルな他所”
あまりある余り
ホットケーキ作ろうと思うときの意欲の約3割は、生地の残ったボウルと泡立て器とかを舐めたいという欲求に支えられている。 ホットケーキだけでなく、スポンジケーキを焼くとか生クリームを泡立てるとか、その作業も完成品も好きではあ続きを読む “あまりある余り”
秋の日は
昼間半袖サンダル履きで家を出て、日が暮れてから自転車で走っていると、その格好ではもうあきらかに寒かった。秋だから葡萄色、と思って塗った足の指の紫は、冷えて血色の悪くなった足を過剰に演出していた。死人の足がペダルを漕いで、続きを読む “秋の日は”
米
米ひと粒の中には7人の神様がいる、といつだったか小学生だった妹がどこかで教わったらしく茶碗を片手にそう言った。ひと粒あたり1人でもありがたく、十分ありがたみはわかるのに7人、どうしてそんなことになったのか。けれどそういう続きを読む “米”