友達の猫をあずかっている。 演劇の海外公演で飼い主が3週間留守のあいだうちにいる毛足の長い女の子。すずという。すずは長い毛のせいもあって手足が短く見え、しっぽも隙間用ほこり取りのような太さで、部屋を横切っていく姿は猫とい続きを読む “あずかり猫すず”
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お隣りの
日曜日。台所にいたら隣の家のお風呂場から十数える声が聞こえてきた。十数えたらあがっていいというのは、今もやるのだなと思った。子供の体が湯船からあがる軽い音、そのあと大人の男がざばっとあがる音。夕方まだ6時前だから晩ご飯は続きを読む “お隣りの”
秋の夕食
あら炊きの 骨からほどける 身をはこぶ 箸の先端 ふるえるゼラチン 煮こごる夜に 空耳の 月光ソナタ あかあかや 身を乗り出して 骨からこぼれた 我が身のゆくえ 私も知らない 白く濁った 目の玉す続きを読む “秋の夕食”
『TrioA』 の痕跡
イヴォンヌ・レイナーというポストモダンダンスの振付家がいる。ポストモダンダンスというのは、1960年代にアメリカで起こったそれまでになかったダンスを創造しようとするムーヴメントで、例えば日常的な動きや、ダンスとして洗練さ続きを読む “『TrioA』 の痕跡”
疾走失踪
左膝が痒い。 地域の運動会があった。今年の春に引っ越した先の町内はわりと結束が固く、行事にも積極的で、引っ越しのご挨拶をした段階でまだ走れそうな年頃と見込まれ、秋に運動会があるからと期待されていた。 そしてその秋がやって続きを読む “疾走失踪”
水源
ものやひとになぜ愛着というものを感じるようになるのだろうか。 愛着は「わく」というけれど、わくというのは勇気がわく、疑問がわくなど、自ずと起こってくる心情をさすものだったり、水がわく、虫がわくなどの意図していないところか続きを読む “水源”
文体の歩き方
8割くらい翻訳サイトの力を借りながら英作文をしていると、この不自由な記号でしか疎通できないのかと思えてくる。 意味をもった文字配列である単語と単語をつらねてどうにか文章にする。けれどとても角張っていて、文章の伝えたい旨に続きを読む “文体の歩き方”
UFOキャッチャーその後
映画館に行って見たい映画のチケットを買ったあと、上演まで30分くらい微妙に時間が余った。お茶して待つほどでもないし、レイトショーだったので周りの店もほとんどシャッターが降りている。明るいのはシネコンに併設されているゲーム続きを読む “UFOキャッチャーその後”
何事もない秋の夜
夜、窓を開けたまま寝ていると虫の音が入ってくる。向かいに建っているコンクリート打ちっぱなしのデザイナーズマンションの前に植わっている木の根元から。窓ごしに見えているそのマンションを賃貸情報サイトでさらに覗いてみる。一度住続きを読む “何事もない秋の夜”
9月素描
コーヒー豆が切れて迷ったけれど今年最後のアイスコーヒーの豆にした。アイスコーヒーの豆は普通のより煎り方が深いのだろう黒っぽい。昼間はアイスでいいけれど、9月に入るや堰を切ったように朝夕は秋が流れ込んできて、アイスコーヒー続きを読む “9月素描”