引っ越して以来、襖を張り替えたいと心のどこかでずっと思ってはいた。もともと張ってあるのは、引手のところに紺色の帯が入っている紺手引帯という襖らしい柄で、特にそれが気に入らない訳でもない。遠目にはきれいに見えるけれど、近く続きを読む “襖の張り替え”
カテゴリーアーカイブ: 寄稿
賞味期限
半月ほど家を留守にしていて久々に帰ってきた。日に日に春の増す日差しに促され、半月前は葉が伸び始めたくらいだったベランダのニオイスミレは一気に濃い紫を咲かせていた。顔を近づけると白粉のような粉っぽいにおいがする。3月初旬に続きを読む “賞味期限”
キノサキにて2
こんなタイトルを付けているのに志賀直哉の『城の崎にて』を読んでませんというのはやっぱりあれだという気がして後追いで読んだ。 城崎にて、というからには温泉街のことが主に描写されているのだろうと思っていたらそうでもなく、志賀続きを読む “キノサキにて2”
キノサキにて
先週の頭から城崎にいる。城崎といえば城崎温泉。 温泉街の真ん中には大谿川という川が流れていて、枝垂れ柳に石橋の掛かる風情ある川を挟んだ両岸にいくつもの旅館やお土産屋、食べ物屋、7カ所の外湯があり、旅行客はそれぞれに浴衣を続きを読む “キノサキにて”
周辺視野
いま私が座っている六畳の部屋の目の前にあるものはノートパソコンの画面で、ワードの白紙にこう、打った文字が、並んでいく、のを、見ている。その向こうにぼやけているのは押入れで、焦点を画面からそっちへうつす。引き手のところを中続きを読む “周辺視野”
土用と水用
2月の短いしっぽの端を見送る前に3月の頭はもうはみ出していて受けとめる間もなく春に押し出される、あるいは春が張り出してくる。春は張る、ハル、膨張する。木の芽をふくよかにする。 毎月1日は赤飯を炊くと年の初めに決めたので、続きを読む “土用と水用”
クートラスの夜
音楽家の友人にすすめられて京都の大山崎山荘美術館にロベール・クートラスの絵を見に行った。 クートラスは1930年パリで生まれ、ユトリロの再来と呼ばれ画商もついた画家だったけれど、風景などの売れる絵を描かなければならないこ続きを読む “クートラスの夜”
寝つきの悪い子供の思いで
その頃3歳下の妹はまだ産まれていなかったから、これは3歳より前の記憶ということになる。私は寝つきが悪かった。 当時住んでいたのは社宅のアパートの二階で、南側の青いカーペットを敷いた六畳間に布団を敷いて父私母の並びで川の字続きを読む “寝つきの悪い子供の思いで”
トレーシングペーパー ≒ 2
先週離婚のことについて書いたらいくつかの反応を受け取ったりした。 もちろんあそこに書いていることを読んでいくほど淡々と別れたのではないし、結論に至るまでに夫婦をやり直すために持てる愛情を全弾投げて試みた時期が当然あった。続きを読む “トレーシングペーパー ≒ 2”
トレーシングペーパー ≒ 離婚届
昨年、人生のなかでしないだろうと踏んでいた離婚というものを、した。 一度は添い遂げる気持ちで一緒になった相手と過ごした10年あまりの時間を思えば、決断に至り実行するまでには感情のぬかるみに足を取られながら気の遠くなる振れ続きを読む “トレーシングペーパー ≒ 離婚届”