昼間半袖サンダル履きで家を出て、日が暮れてから自転車で走っていると、その格好ではもうあきらかに寒かった。秋だから葡萄色、と思って塗った足の指の紫は、冷えて血色の悪くなった足を過剰に演出していた。死人の足がペダルを漕いで、続きを読む “秋の日は”
投稿者アーカイブ:mimacul
米
米ひと粒の中には7人の神様がいる、といつだったか小学生だった妹がどこかで教わったらしく茶碗を片手にそう言った。ひと粒あたり1人でもありがたく、十分ありがたみはわかるのに7人、どうしてそんなことになったのか。けれどそういう続きを読む “米”
葛の葉
葛の葉、という字の佇まいからは何かしら品のあるものを感じる。 葛というと、葛湯とか葛きりとか、加工品も上品なのでなおさらそんな気がするし、これは伝説だけれど陰陽師の安倍晴明の母親は白狐の変化で、その名前が葛の葉という。な続きを読む “葛の葉”
釜ヶ崎の1時間
友人から釜ヶ崎にある立ち飲み屋で夜にライブとするという知らせをもらった。歌を聞きたかったので行くことにしたけれど、釜ヶ崎という場所には行ったことがなかった。写真や何かで読んだりした街のイメージしかなかったので、日が暮れた続きを読む “釜ヶ崎の1時間”
文字の体
こういう文章や詩を書いているけれど、正確には書いているのではなくて全部打っている。モニター越しにゴシック体に変換され、きちんと整えられた文字が並んでいくのを見ているのが気持ちいい。自分の筆跡を離れた言葉を眺めていられる距続きを読む “文字の体”
奇妙な果実
ビリー・ホリデイの歌のことについて書こうとしているのではないけれど、タイトルを奇妙な果実と決めたところでイントロが頭の中で流れ出す。 季節になってスーパーに無花果が並ぶようになった。数ある果物のなかでいちばん好きなものを続きを読む “奇妙な果実”
割れたチェロ・ソナタ第3番
お気に入りのパン屋が日常自転車移動範囲に数件ある。そのうちの一件はくるみパンが有名で、そのくるみパンには数日後にまた食べたくなる柔らかなものの中毒性があり、出先でお腹が空いたらしょっちゅうそれだけ買って自転車で走りながら続きを読む “割れたチェロ・ソナタ第3番”
ミツコのにおい
ある演出家がはじめて海外公演に出掛けたとき、空港で「ミツコ」という香水を見つけた。その演出家の奥さんの名前はミツコだった。異国の地で偶然に妻の名前のついた香水を見つけるなんて絵に描いたようでずるい。そのエピソードが好きで続きを読む “ミツコのにおい”
猫のにおい
身近に猫好きの人が多いので、世の人は皆猫好きと思いがちだけれど、夥しいペットボトルを玄関先に並べている家も少なくないので、人類が皆猫を好きではないことは知っている。 うちには2匹いる。ふと居間を四ツ足のものが歩いているの続きを読む “猫のにおい”
土のにおい
近所の古いお屋敷の解体が始まった。立派な母屋と離れと蔵と庭が悠々あるくらいの敷地で、ある日庭木が伐採された。大きな梅も椿も突然枝葉をはらわれて、切り口が唖然として赤い。母屋の屋根瓦が下ろされ外壁が剥がされるとそれまで内側続きを読む “土のにおい”